津波の発生
東日本大震災の津波: 波ではなく海が押し寄せてくるのがわかる |
従って、通常の波と津波とでは、1000倍以上のエネルギーの差があります。例えば、高さ1mの波(成人の胸から腰)ではびしょ濡れになったり転んだりするぐらいですが、1mの津波では海中に引きずり込まれると考えて下さい。
津波の速度
津波の速度は海の深さによって決まります。津波の速度(伝播速度と言います)=(9.8×海の深さ(m))の平方根(単位はm/s(秒速・m))です。海洋の平均深度は4000mですから、200m/s(秒速200m=720km/h)、音速が1200km/s程度ですから、720km/hはジェット機の巡航速度程度になります(巡航速度は音速の6~7割)。海岸に近づくと水深が浅くなるので、津波の速度は遅くなり、その分高さが増します。
津波の高さ
津波の海岸線付近の高さは、グリーンの公式で計算します。
H2/H1= (b1/b2)^(1/2)×(h1/h2)^(1/4)
水深h1の沖合での津波の高さをH1、水深h2の沿岸での津波の高さをH2、b1は湾奥の幅、b2は湾口の幅を表します。
H2={(b1/b2)の平方根 X (h1/h2)の4乗根}X H1
湾の入口の幅1km、深さ100m、波高1m、湾の奥の幅10m、深さ5mの湾の奥の波高を計算すると、
沿岸での波高={(1000/10)の平方根 X (100/5)の4乗根} X 1 = 10 X 2.1 X 1 = 21mです。
ここらまでは、津波の基礎となります。
その他の現象として、次のようなことがあります。
・浅水変形
水深変化による波数、速度の変化による波高、波長の変化のことです。速度が遅くなることによることが原因ですが、後の波が前の波に追いついて干渉(後述)することもあります。
・屈折
津波は、水深の浅い方向に曲がりながら進みます。
・回折
前方に島などがあっても津波はエネルギーを維持したまま、島の後方に回り込みます。
・反射
海岸線で津波は反射されます。反射した津波は次の波と干渉したり、屈折したりして、複雑な水の動きを作ります。
・干渉
二つの波がぶつかった場合に起きる現象で、波の山と山がぶつかった場所では波高が高くなり、山と谷がぶつかった場所では低くなります。
・波高減衰
波の上部が砕け落ちる現象で、砕けた分は波高が低くなります。
・遡上
津波が陸上に押し寄せたり、河川を逆流する現象です。津波の被害のほとんどは、遡上によって起こります。陸上への遡上は家屋等の破壊や流出を起こします。抵抗の差によって河川への遡上の方が高くなります。
これらの性質によって次の現象が起こります。
・岬へのエネルギー集中
半島や岬のように、海に突き出した地形においては、水深が海岸に向かって徐々に浅くなるため、津波は岬方向へ屈曲し、その結果、岬に津波が集中します。浅水変形と屈折変形が起こりますが、津波のエネルギーは維持されたままになります。
・湾の固有振動との一致
遠浅の湾では、湾内で岸と遠浅部で反射を繰り返します。波高減衰は起こりますが、津波との干渉が湾の固有振動と一致すると、湾の深部での波高が極めて高くなります。
・湾の継続波の発生
幅の広い湾では、斜めの反射波が海岸方向へ屈曲し、再度津波となります。また、元来の津波と干渉して波高の高低が起こります。
南海地震の規模想定例
南海地震の震源は高知県の南方150km~200km、水深4000mの位置で起こると推定されます。
誤差を考えても、20分~30分程度で高知県南部に到達すると思います。高知県南部はリアス式海岸で湾と岬が連続するため、30m級の津波が予想されます。日本最大の津波は40mほどですから、最大級と言っていいほどの津波になると思います。
また、瀬戸内海でも回折による津波が予想されます。過去の数度の南海地震でも実際に起こっています。波高は1~2mでしょうが、特に河川の遡上に注意が必要です。
福島の実例を見れば、防波堤で津波を止めることはできません。実際には防波堤は津波の侵入を約6分遅らせる効果があったとされています。防波堤のある地区より、ない地区の方が人的被害が少なかったという研究があります。防波堤のない地区では地震と共に全員が山に逃げたのに対し、防波堤のある地区では大事なものを持っていこうとしたりして、逃げ遅れた人が多かったようです。大阪では2~3mの津波が予想されますが、丈夫なビルに逃げ込みましょう。ビルは防波堤に比べて基礎がしっかりしているので、多分2~3mの津波には耐えうると思います。
防波堤の構造 |
ビルと住宅の基礎 |
防波堤の基礎は砂や石の上に作られており一般住宅と同じですが、ビルは岩盤中に基礎を取っています。
正しい知識を持ちましょう。津波について流布されていることが正しいわけではありません。
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