その年の春先4月ぐらいに県大会があり、私のチームは思いがけず良い成績を収めました。その時の相手と更衣室で一緒になったので話をしていたところ、
「バスケットをやりたいんだが、できない」
と言い出しました。彼によると、体育館を被災者が使っているので練習できないとのこと。負けた悔しまぎれに言っているようには見えないので、もう少し話をしてみると、練習場所がないのでチームも解散するかも知れないと言います。さすがに何とかしてやりたい気持ちになったので、
「ちょっと遠いけどうちのチームの練習に来るか?」
と誘ってみました。彼は、
「みんなで行っていいんですか?」
とちょっと意外な様子。
「他のチームも来ていい」
とも言いました。
実は私はこのチームで偉そうな顔をしていましたが、キャプテンでも何でもなく、決定権さえないんです。キャプテンが、
「そんなに誘って大丈夫ですか?」
と訊くので、
「お前は絶対に損はしないから」
と言って納得させました。
それからしばらくは賑やかな練習が続きました。
好きでバスケットをやりたい人を見捨てることはできませんよ。それから、うちのキャプテンは兵庫県内で結構有名になり、飲み友達もたくさん増えたとのことです。私はいまだに彼らと道ですれ違うと、大きな声であいさつしてもらえます。
よく「勝ち負けが全てではない」といいますが、勝ち負けは確実な実力の指標です。「勝ち負けが全てではない」という場合は、多分に悔しまぎれの言い訳に聞こえることもありますが、勝ち負けよりも価値のあるものとはこういうことか、と思いました。
「うちのチームに練習に来るか?」
と言った言葉は、後輩のキャプテンとバスケットをやりたいができなかった彼らを、少し変えることになったのなら嬉しいですね。
わたしはこれ以降、「勝つのがそんなに大事ですか?」の問いには、「大事です。勝つより大事なことはあるが、あなた方には無理です」と答えるようになりました。自分たちのことしか見えない人には、戦ってくれる相手のことまでは見えないですから。
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